音楽に関する話をしよう

自由に書いてます、音楽が好きです。

好きなバンドが同じだった

 

 


好きなバンドが同じだった。

 

 

ただそれだけだった。

 

 

 

それだけなのに気になってしまうのは、私が恋愛体質だからなのか、音楽が好きだからなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


今年の冬は、去年ほど雪は降らなかったが相変わらず寒さが厳しい。私の好きなバンドのボーカルは、北海道の寒さを「涼しい」というけれど、私にとってこの寒さは「痛い」のである。正に極寒という2文字が似合うこの季節、私の住むところでは毎年カーリングが恒例行儀として行われる。

 


仕事以外で人に会う機会が滅多にないので、カーリング場で、この町に住む人を認識することが多い。

 


その中で一際身長が飛び抜けている、私と同じくらいの年の人を見つけた。名前を知りたくて、毎年帰りにビールを飲ませてくれるおじさんに尋ねる。すぐに教えてくれた名前は、聞きなれない単語でしかなかった。

 


遠くから見ていた。小学生からお爺ちゃんまで、幅広い世代で溢れているカーリング場に、分け隔てなく誰にでも笑顔で話しかけ、一生懸命仲間と声を掛け合い、試合を楽しんでいる姿が、私の目に鮮やかに写った。「良い人そう」というのが第一印象だった。

 

 

 

試合が終わると、リンクの管理人のおじさんが、いつもビールを若者たちに与えてくれる。そして1時間近く世間話をして、家に帰るというのがお決まりの流れだ。私はこのためにカーリング場に来ていると言っても過言ではない。歩いて帰るには寒く、15分かかるけど気にしなかった。仕事以外で他の人と話すことがないからこそ、この1時間は私にとって幸せの時間であったからだ。

 

 

 

今日もいつものように「今年も飲みに来たんだべ?」と言われ、糖質オフの缶ビールを渡される。冷蔵庫には糖質オフのビールが多く、体を気にしているのかと思うと、可愛らしいなと微笑んでしまう。飲みたい人と、話したい人が基本残る。そこに私の気になる彼がいた。

 


彼はおじさんたちに混じってタバコを吸っていた。180センチある彼の身長は、ここにいる人の中で1番高く、目立っていた。そのせいもあって,異常に目で追ってしまっていたのかもしれない。目が合う。軽く会釈をされる。距離を感じる。もっと仲良くなりたいと思い、勇気を出して自己紹介をする。「名前は知ってます」と告げると、「えー、自分で言いたかったのに、よろしくお願いします」と返された。爽やかな笑顔と共に。スポーツできる人特有の笑顔だ、と思った。

 


それから多いと週3回、カーリング場で会うようになった。少しずつ話せるようになった。私より、同世代の男性と話している方が多い。よくくっつくし、よく話して、よく笑っている。自分は寂しがりやの典型的なひとりっ子だって教えてくれた。血液型はO型で、みんなに輸血できるけどO型からしか血がもらえないのって悲しいと話してた。片道40分かけて、ここに通いに来てるらしい。「どんだけカーリング好きなんですか」と揶揄い気味に聞くと、「カーリングハマってるし、ここの人と話したいからだよ」って笑顔で帰ってくる。この会話も時間も、切り取って取っておきたいと思った。どうして愛おしい時間は、感じた瞬間過去になるのだろう。

 


そんな日々が柔らかく流れていた時、管理人のおじさんが「もうそろそろリンクも閉めるし、軽く打ち上げでもしようか」と提案した。でも誘われてたのは上位チームのみ。私の職場で組んでいたチームは最下位だったので参加券はなかった。彼がくるのかすごく気になる。いつも居残りの時間に飲んでいるのは、私と、管理人の2人のおじさん、私の同僚である先輩くらいだった。私も彼と飲んでみたい。お酒の力を借りた。手に持っていた半分よりすこし少ないビールを一気に飲み干す。「わたしも、美味しい肉、たべたいです!!」とお願いした。おじさんは、「全然いいよ、来週火曜、19時な。」と快く承諾してくれた。知っていたけど彼に聞く。「もちろん、来ますよね?」と彼に尋ねる。「当たり前だよ!この日はおじさんの家に泊めてもらうんだよね。いっつも飲んでたの羨ましかった、楽しもうね?」と、またあの笑顔。反則だ…と心の中で呟いた。

 

 

 

その日まで毎日楽しみだった。職場のチームにはもちろん秘密だ。当日は何を着ようか。いつもジャージだから、ここで印象変えたほうがいいのかな?でも狙いすぎるのは自分らしくないよな…。髪は巻いたら気合い入れすぎって思われるかな…と前日の仕事中から悩んでいた。こんな感覚は久々だった。

 


当日お店に着くと三番目くらいだった。彼とおじさんたちは少し遅れるらしい。私の隣と斜め前が空いていた。「隣、座って欲しいな」なんて願いながら到着を待つ。一位だった高校生チームの子達と最近の芸能人の話とか、恋愛の話とか、ありそうな話題を並べて時間を潰した。遅れてきた人がお店に到着する。ここで名前を呼んだら、押しすぎだよなと思いながら呼びたい名前を我慢する。しかし、彼は自然と私の隣に座った。最初の1杯目のビールは、あの日勇気を出した私に乾杯の気持ちを込めて、グイッと一気に喉に流し込んだ。

 


彼の仕事は不規則で、スマホは2台持ち。私物のスマホには飼っているペットの犬の写真が写っていた。彼女とのツーショットじゃないことだけが救いだった。いるのかもこの時は知らなかったけれど。私のスマホも添わせるように隣に置く。触れそうで触れられない距離に手を置く。それだけでよかった。

 


「ねえ、ライン交換しよう」と、彼は私の隣に座っていた男の子に声をかけていた。「全然いいっすよ、てか今更ですよね(笑)」とその男は軽くQRを差し出す。この流れしかない、と思った。「わたしもライン知りたいです」と気づいたら声に出していた。「いいですよ」と交換してもらった。QRコードを自分のスマホ画面に映す。これだけでもう幸せだった。スマホを隣に並べるだけで幸せだったのに、彼のアカウントが私の友達リストに存在していた。だいすきな肉を食べるのを忘れた。残り物の玉ねぎやら長芋を食べた。前に座っていた大学生の女の子に「食べてないじゃないですか〜〜あ!焼けてるの食べてくださいね!」と可愛い声で、焼かれすぎている肉たちを食べた。美味しいのか、不味いのか、よくわからない。わからなくてもいいと思った。

 


1時間とちょっとの時間が流れる。ビールは気づいたら5杯飲んでいた。カーリングの話で盛り上がっていた。さっきより彼との距離が近い。彼も結構飲んでいて、話の流れで私の肩に腕を回す。「自然にできるなんて、天性の人たらしだ」と思った。少し時間が経った後、ゆっくり彼の腕を自分から外し、その腕を自分の左手に巻きつけた。振り解かれたら、それでいいやと思った。彼は私の腕を受け入れてくれた。「好きだな」と思った。

 


彼と一緒に帰りたいとか、飲み直したいとか、キスしたいとか、セックスしたいとかは一切思わなかった。でも、ただこの空間の中で、彼の温度を感じたかったし、独り占めしたかった。

 


帰りは意外とあっさりと解散し、彼とは別々に帰った。LINE交換したけどどうしよう、と悩んでいた。飲みすぎた頭には重すぎた。明日考えよう、と考えながら化粧だけ落として平日なのに寝落ちしてしまった。

 


朝起きると「たのしかったね」と通知が入っていた。スマホを愛おしく握りしめる。憂鬱な水曜が明るい色に染まった。

 


好きなバンドが同じだったことを思い出す。わたしが1番好きなバンド、「SIXLOUNGE」。今まででTwitterのフォロワー以外の現実の世界で、まだ男性ファンに会ったことがなかった。いつのライブに行ったことがあるのか尋ねると、わたしがまだ好きになる前のライブだった。

 


「他になんのバンドが好きなんですか?」「1番はアジカン、他にはエルレミスチル、tetoとか好きかな」「えーーー!!わたしtetoすきです!よく聞きます」「言った後に、もし知っていたらtetoは絶対好きだろうな〜って思ってた笑」残念ながら、アジカンミスチルもよく知らない。でもSIXLOUNGEが好きだからtetoも好きそうという音楽性が伝わっていたことが嬉しかった。わかる人が近くにいたんだって嬉しくなった。

 


彼の設定されているLINEミュージックの曲をサブスクで調べる。しっくりこないなと思いながら、関連する曲を聞く。「おすすめされたサリバン,聞いたけどめっちゃいいね!」覚えててくれたことが嬉しかった。愛おしかった。音楽好きな人と付き合って、好きなバンドの話をして、一緒にライブを行くのを密かにどこかで憧れていた自分を思い出す。

 


あれから毎日ラインをするようになった。音楽の話、仕事の話、なんだか高校生みたいなやりとりで、照れくさい。設定されてるLINEミュージックは、誰か大切な人を思い浮かばされるような歌詞だった。彼女はいないけど、そういう人はいるのだろうか、と考えたりする。

 

 

 

意味なんてないのに、これ以上の関係なんて求めてないのに。

 

 

 

同じバンドが好きなだけ。それ以上でも以下でもない。この関係に名前なんていらない。